【オーストラリアの安楽死事情】半年で52人が実施

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【オーストラリアの安楽死事情】半年で52人が実施
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最近、日本でも安楽死に関係するニュースが話題になりましたが、オーストラリアでも安楽死に関しては以前より話題になっていました。そこで今回は改めてオーストラリアの安楽死事情の最新の情報をお届けします。

 

ビクトリア州で初の施行

オーストラリアでも安楽死に向けての処置は簡単には行えませんがビクトリア州に限り可能になっています。これまでに、かなりの時間をかけて議論されており、他州に先駆けて2017年に安楽死を許可する法案が可決されました。そして、2019年6月19日に施行となり、昨年の12月までの6か月間に52人が安楽死となったことが発表されました。これは当初予想していた、最初の12カ月で12人程度を大幅に上回る数字である、とガーディアン紙などが伝えています。

 

安楽死と一言に言っても、厳密には措置によって呼称が異なり、今回ビクトリア州で選択できるようになったのは「Voluntary Assisted Dying=VAD」というもの。「医療的幇助自殺」や「医師介助自殺」などと訳されます。昨年7月15日に最初のVADが行われたことでニュースでも話題となりました。

 

※日本語だと以下のような分類になっているようです。
●安楽死:行為自体として、他人が関与
①積極的安楽死;患者の命を終わらせる目的で「何かをすること」
②消極的安楽死;患者の命を終わらせる目的で「何かをしないこと」

 

●自殺幇助:患者本人が関与する
「自殺の意図を持ちものに、有形・無形の便宜を提供することによって、その意図を実現させること」
患者本人が関与するケースで、本人が、処方された薬物や毒物、あるいは他の行為によって自分の命を絶ちます。
参照元:日本臨床倫理学会

 

初の実施者は末期ガン患者

オーストラリアで最初に認可されたのは、メルボルン郊外のベンディゴに住むケリー・ロバートソンさん(61才)。10年もの間、乳がんの闘病をしてきた彼女ですが、全身へのがんの転移が確認され、放射線治療をストップ。2人の娘とともに話し合いの結果、医師の認定を受けてから26日目。に送られてきた処方薬を服用して自宅で2人の娘に見守られながら、安らかに亡くなられています。

 

 

2人の娘さんのインタビュー映像はこちら

参照元:ABC News

 

予想を超える希望者数

ビクトリア州保健省の発表によると、6か月間に実施された52人のうち、9人が医師による静脈注射での薬品の投与で、43人は処方された薬物を自身で摂取によるもの。安楽死の適格性が認められたのは135人、81人を認可、薬物を処方されたのは66人だったようです。予想を上回る人数の申請があったとされています。

 

※参照元:SCV
2020年6月時点の発表では、施行から約1年で400件の問い合わせとなっているようです。

 

様々な問題点

①家族の承認

安楽死審査会の会長で最高裁の元裁判官のキング氏によると、家族が患者本人の決断に同意しないケースもあったようです。その家族では、最終的には患者をサポートすることとなったと説明しています。認可を受けるには、まずケアーナビゲーター(国の介護プログラムなどを案内する専門スタッフ)が患者とその家族とも話し合いをすすめるサポート役になり家族の承認を取る。その後に、さらに州の認可をとる為にとして、2名の専門の医師と面談して署名が必要になります。実際に、ミカコスVIC保健相は「認可手続きは非常に厳しいが、需要も非常に高い」と述べています。

 

②認可手続き

同法が認めているのは、余命6カ月以内と診断された末期患者に対する医師のほう助によるもの、との規定があり、世界でも最も保守的な法の一つとされています。やはり簡単に安楽死を選択出来る、ということではないのです。

 

規定は以下の通り。
・18才以上
・オーストラリア市民、または永住者でビクトリア州に最低12ヶ月以上は住んでいること
・判断力があること
・非常に耐え難いと考えられる苦しみを経験している
・6ヶ月の寿命。診断された病気が治療不可で進行していて死に至る。
・神経変性の病気の場合、余命12ヶ月以内であること。
・2名の医師からの推薦。
参照元:QUT

 

その規定の為の苦しい思いをされた方もいるのも事実。オーストラリアの環境・植物学者デイビッド・グドールさん(104才)は、末期症状を抱えていたわけではありませんでしたが、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)が低下していたことから、自死を決断。オーストラリアでの安楽死を諦め、2018年4月、自殺ほう助の認められているスイスで、鎮静催眠薬ネンブタールの注入によっての自死を選択しています。

 

安楽死を望んだきっかけは、自宅で転んでしまい起き上がれないまま、2日後に来たクリーナーに助けられたことからでした。擦り傷程度で大事ではなかったが、医師からこれからはもう自分で道路を渡ったりしないように言われ、もう自分で自分の面倒を見れない、拘束された生活で人生を続けたくないと思い、自死支援団体エグジット・インターナショナルに相談。支援団体の助けによりスイスへ渡航しています。

 

グドールさんの特集記事はこちら
【104才で安楽死】自死の議論に一石を投じる


参照元:ABC News

 

③専門医の不足

希望者の需要が高い一方で、査定ができる専門医はまだまだ不足しているといわれています。既に多数の医師が安楽死査定の訓練を受けているようですが、現在は、田舎の地方になるとメルボルンなどの大きな都市に比べると3分の1位の医師しかいません。そうすると、起き上がれないような重病人が、審査のためメルボルンまで移動しなければならない、といった問題も発生している為、今後は、州内全ての地域の公立医療機関に、最低1人の専門の査定者が登録されるようになるという計画を発表しています。

 

④リモートでの診断が出来ない。コロナ渦で浮き彫りに

コロナ渦の流行や自粛生活を余儀なくされている現在では安楽死の希望者も増加していると言われています。健康面だけでなく精神面でもより不安を抱える状況になっていますが、多くの人達は、感染を恐れて病院に行くのを避け、ケアーナビゲーターのサポート等の接触も躊躇せざるを状況に追い込まれているのです。現行では接触をしないeメールや電話での安楽死のカウンセリングや遠隔医療は認められていませんが、このコロナ渦のため、今後は遠隔医療としての接触しないカウンセリング法を検討していく方向とされています。

 

今後は他州でも安楽死が可能になるかも?

現在は、ビクトリア州のみの実施ですが、既に西オーストラリア州、クイーンズランド州など、他の州議会でも審議にあがっています。また、以前はノーザンテリトリー準州にて一度は可決されたりなどしており(後にキャンセルされている)、今後は他州でも安楽死に関しての法案の検討が強まっていくものと考えられています。ただ、ビクトリア州で安楽死の選択が出来るようになったことに関しての意見は大きく分かれていて、人によっては、「個人の自由を得た第一歩」と捉える人もいるし、一方では、基本的道徳の教えを裏切る行為であり医療専門家の基本的意義にも反する、と言う人もいます。命に関わる非常に難解な問題ですし、何が正解なのかは個人個人の価値観で大きく異なるのかと思います。

 

ただ、人生100年時代と言われる昨今で、ますます安楽死を希望される人も増えるような気もします。オーストラリアでは日本よりも少し進んでいる状況なので今後の参考になるのかもしれません。

 

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